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浦和地方裁判所 平成7年(わ)98号 判決

裁判所書記官

佐藤憲一

本籍

埼玉県大宮市東大宮五丁目八番地三

住居

同市東大宮五丁目八番地の三

東大宮サーパス八〇二号

不動産ブローカー

仲吉良二

昭和一二年七月一五日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中川深雪出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中八〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、かねて、長野善一から、同人の養母長野まさの死亡(平成五年三月二三日)により、右長野善一がその共同相続人小泉美智子、長野千栄子及び長野志保子とともに納付すべき相続税を免れることについて相談を受けていた者であるが、被告人は、右長野善一と共謀の上、長野善一本人の代理人かつ小泉美智子、長野千栄子、長野志保子三名の代理人である長野善一の復代理人として、相続税の申告をするにあたり、長野まさを保証人とする架空の保証債務を計上し、かつ、相続財産である土地の価額を過少に計上して課税価格を減少させる方法により、相続税を免れようと企て、平成六年一月七日、埼玉県春日部市大字粕壁五四三五番地の一所轄春日部税務署において、同税務署長に対し、長野善一の実際の相続財産の課税価格は七億五四五七万六〇〇〇円でこれに対する相続税額は二億九〇二〇万四八〇〇円であり、小泉美智子の実際の相続財産の課税価格は一億三〇〇四万四〇〇〇円でこれに対する相続税額が五〇〇一万四〇〇〇円であり、長野千栄子の実際の相続財産の課税価格は一億一〇三一万一〇〇〇円でこれに対する相続税額は四二四二万四八〇〇円であり、長野志保子の実際の相続財産の課税価格は四九三一万六〇〇〇円でこれに対する相続税額は一八九六万六六〇〇円であるにもかかわらず、被相続人長野まさに三億七〇〇〇万円の保証債務があり、この全額を長野善一が負担すべきことになったとして、同人の取得財産からこれを控除し、かつ、相続財産である土地の価額を過少に計上し、同人の相続財産の課税価格が二億〇五〇四万七〇〇〇円でこれに対する相続税額は六〇〇一万七六〇〇円であり、小泉美智子の相続財産の課税価格は九一一一万四〇〇〇円でこれに対する相続税額は二五二〇万七三〇〇円であり、長野千栄子の相続財産の課税価格は七六二八万八〇〇〇円でこれに対する相続税額は二一六〇万六三〇〇円であり、長野志保子の相続財産の課税価格は五〇四〇万八〇〇〇円でこれに対する相続税額は一三二〇万三八〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって不正の行為により、長野善一の正規の相続税額二億九〇二〇万四八〇〇円と右申告税額との差額二億三〇一八万七二〇〇円を、小泉美智子の正規の相続税額五〇〇一万四〇〇〇円と右申告税額との差額二四八〇万六七〇〇円を、長野千栄子の正規の相続税額四二四二万四八〇〇円と右申告税額との差額二〇八一万八五〇〇円を、長野志保子の正規の相続税額一八九六万六六〇〇円と右申告税額との差額五七六万二八〇〇円を(合計二億八一五七万五二〇〇円)、それぞれ免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書五通

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の査察官報告書三通(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の査察更正決議書(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の脱税額計算書(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の修正貸借対照表(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の土地調査書(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の家具その他調査書(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の債務保証調査書(謄本)

一  収税官吏(大蔵事務官)作成の脱税報酬調査書(謄本)

一  埼玉県春日部市長認証の戸籍謄本二通(謄本)及び改製原戸籍謄本(謄本)

一  小泉美智子に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書二通(謄本)

一  長野千栄子に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書二通(謄本)

一  長野志保子に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書二通(謄本)

一  高山雅明に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書(謄本)

一  浦田数利に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書(謄本)

一  山田義一に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書(謄本)

一  斉藤庄一に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書(謄本)

一  石原利博に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書三通(謄本)

一  牛木和夫に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書四通(謄本)

一  原田裕功に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書二通(謄本)

一  長野善一に対する収税官吏(大蔵事務官)の質問てん末書四通(謄本)

一  長野善一の検察官に対する供述調書(謄本)

(累犯前科)

被告人は、

(1)  昭和六〇年一二月二六日東京地方裁判所において、詐欺、相続税法違反の罪により懲役六年に処せられ、平成三年四月一九日右刑の執行を受け終わり、

(2)  昭和六一年四月二三日大阪地方裁判所において、詐欺罪により懲役一年六月に処せられ、平成五年六月一九日右刑の執行を受け終わり、

(3)  昭和六二年五月二六日浦和地方裁判所において、所得税法違反の罪により懲役八月に処せられ、平成四年一二月一九日右刑の執行を受け終わったものであって、

右各事実は、検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示の所為のうち、相続人長野善一の相続税ほ脱の点は、刑法(平成七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文前段により同法による改正前のもの。以下、同じ。)六〇条、六五条一項、相続税法六八条一項に、その余の相続人三名の相続税ほ脱の点は、いずれも、刑法六〇条、六五条一項、相続税法七一条一項、六八条一項に、それぞれに該当するところ、右は、一個の行為で四個の罪名に振れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、一罪として犯情の最も重い長野善一の相続税ほ脱の罪で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、被告人には前記の各前科があるので同法五六条一項、五七条により再犯の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役二年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中八〇日を右刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が納税義務者と共謀の上、合計約二億八〇〇〇万円もの相続税を免れた事案であり、ほ脱額が巨額であること、ほ脱率は七〇パーセントを超えていること、被告人は本件犯行により約三〇〇〇万円もの報酬を得ていること、被告人は、前記のとおりの同種前科を有していることなどに照らせば、被告人の責任は重いといわなければならない。

しかし他方、本件犯行の手口は比較的単純なものであること、本件犯行は、他人を介して長野善一の側から持ちかけられたものであること、本件について反省していること、被告人は、本件勾留中に胆石等の手術をした術後の身体であること、外国人である妻と、幼い子供(同女の三歳の連れ子で被告人の養子)が、被告人の帰りを待っていることなど、被告人に有利なもしくは同情すべき事情も認められるので、これらの諸事情を総合考慮して、主文のとおり量刑した(求刑 懲役三年)。

(裁判官 肥留間健一)

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